耳石とは、耳の中にある感覚器官の構造物です。白色の固形物で魚種によって耳石の形が異なることや個体の成長に伴って耳石も成長するといった特徴を持ちます。そんな耳石を詳しく見ていきましょう。
耳石を深める(別ページ)
耳石は文字通り、耳の中にある石です。魚にはヒトのような耳(耳殻)はありませんが、頭の中に耳を持ちます。ヒトの場合、耳は外耳・中耳・内耳に分けられ、魚類の場合はその中の内耳のみがあります。
ヒトの内耳と魚類の内耳はほとんど同じ感覚の受容を担っています。魚類の耳石は内耳の中で耳石器官の構造物として位置しており、重力、体の回転、加速度、傾きや音の受容に関わっています。
ヒトの場合は魚類の耳石のように大きな構造物は持ちませんが、相同器官として平衡砂(+寒天状物質)があります。平衡砂はその大きさが小さいため「砂」と表現されているが、クラゲなどの原始的な生物にも多く存在する構造物です。その中でも魚類は他の生物群と比べて大きい平衡砂のため「耳石」と呼ばれます。
一般的な魚類のうち、無顎類、軟骨魚類、硬骨魚類の中のマンボウ類は平衡砂を持つとされています。本サイトでは硬骨魚類のうち、マンボウ類を除く硬骨魚類の耳石(特に偏平石)を軸に探求していきます。
ヒトの耳
| 外耳 | 耳殻と外耳道(耳垢の溜まるところ)など。外からの音を鼓膜へ伝える。 |
| 中耳 | 耳小骨やエウスタキオ管のあるところ。(耳がキーンとなるところ。) 鼓膜からの音を増幅して内耳へ伝える。 |
| 内耳 |
●中耳からの音(振動)を感覚細胞が受容する。 ●半規管で体の回転や加速度を受容し、前庭で体の傾きを受容する。 上記の受容信号を神経を通して脳へ伝える。(ぐるぐるバットでヤラれたり船酔いなどでヤラれるところ。) |
硬骨魚類の耳石には3種類の耳石があります。それぞれが右耳・左耳に配置されるので硬骨魚類は合計で6個の耳石を持ち、それぞれの対は鏡像関係(右手・左手の形と同じ関係)になっています。
【偏平石】
一般的に魚類の耳石というときには偏平石を指します。一般的に最も大きく、採取しやすい耳石です。内耳の中の小嚢という袋状構造の中にあります。このサイトの主役で、「耳石図鑑」で紹介しています。
【礫石】
内耳の中の通嚢という袋状構造の中にあります。かなり小さいことが多いようで、礫石まで採取するなら実体顕微鏡を使った方が良いでしょう。
【星状石】
内耳の中の壺嚢という袋状構造の中にあります。偏平石が比較的大きい魚種の場合、肉眼でも採取できたりします。扁平石にくっついてくることが多い耳石です。 耳石図鑑の「偏平石以外の耳石」で紹介している耳石はほとんどが星状石になると思います。
3種の耳石は基本的には下記で紹介していく特徴を持ちますが、偏平石が最も大きいことなどから、魚類学の研究の中で用いられる耳石としては偏平石が最も多いです。
硬骨魚類の内耳の概図
耳石は、内耳の中の耳石器官という袋状構造が3つ繋がった箇所にそれぞれ入っていて、主に重力や体の加速度、音などを感知する際に使われます。
体の回転は主に半規管で感知されます。硬骨魚類では半規管が3本あることもヒトと同じ特徴になります。
耳石にはいくつかの特徴があり、それを活かした研究などが行われています。このサイトでは研究内容などは詳しくは取り扱いません(WEB検索をすると耳石を用いた研究などがヒットします)が、基礎になっている特徴を紹介します。
炭酸カルシウム
耳石の主成分は炭酸カルシウムという物質で、貝殻やサンゴ、鳥の卵殻、石灰岩、黒板で使うチョークなどと同じです。炭酸カルシウム以外にはナトリウムやストロンチウムなどのミネラル分をわずかに含みます。
なお、骨の主成分はリン酸カルシウムという別の物質が主成分で、耳石は骨ではありません。
形状
耳石は魚種によって固有の形状を持っています。一般的に系統的に近い種類はその形状は似通い、系統的に遠い種類は形状が異なる傾向にあります。耳石の形状については近縁種でも形状が大きく異なることがあり、系統が大きく影響するのか生息様式の類似性が大きく影響するのかよく分かりません。
また、体の成長と共に耳石も成長します(詳細は後述)が、成長に伴って外縁が変化していく魚種もあります。
【コラム:なんて言えばいい!?】
耳石の形状は上記のように、多種多様です。しかも、成長により印象がかなり変わる種もあります。一般的な偏平石の形は上記のユメカサゴのように白米のような形状のものが多い印象で、外形を解説する表現が似通ってきます。かと思えば、クロカサゴやハタハタのように全く異なる形状のものもあります(もっと突拍子のない形状の魚種も多々!)。
叶うならば種ごとに分かりやすい印象を解説文に記載したいと思って、各魚種の図鑑ページを作成していますが、結構苦戦するポイントです。この多様性が耳石の魅力でもありますが、泣かされどころでもあります。
サルカス
耳石の片面にはサルカス(sulcus)という、神経や血管が通る溝があります。サルカスの部分で耳石は耳石器官の袋状構造に付着しています。
サルカスの形状も魚種によって異なり、耳石の外形の特徴と共に耳石による種同定を行うときの重要な根拠となります。耳石による種同定は、海洋生物の胃内容物や糞から発見した耳石を基に食性を調査したり、化石の耳石を種同定してその時代・地域の生態系を調べたりすることができます。特に化石の耳石については、耳石の外形が摩耗して繊細な縁辺の構造は残らないことが多いですが、サルカスははっきりと残ることが多いので重要な形質とされています。
現生魚類の耳石では、肉眼や顕微鏡では光の変化でサルカスを観察しやすいですが、撮影した画像では分かりにくくなってしまいます。耳石図鑑では、耳石のスケッチにサルカスの形状やその他の大きな凹凸構造を表現していますので、観察の参考にしてみてください。
サルカスの形状はいくつかの特徴で分類されます。多くの魚種では、魚の頭方向の耳石
の辺縁から開口し、末端は少し腹方向へ曲がり耳石の中で終了します。図示したキンメダイ耳石では、右(頭)方向から開口し、末端はわずかに腹側に屈曲して耳石内で終わります。
サルカスの位置と形
左図は金目鯛の左側耳石、右側は模式図です。模式図のピンク色の範囲がサルカスです。
化石の耳石
作者が大学時代に採取し、サッパ類と同定した化石の耳石です。
輪紋
耳石には日周輪と年輪という、2種類の輪紋があります。袋状の耳石器官の内部に耳石を作る成分(カルシウムやタンパク質)が分泌され、その分泌物が耳石の核や既にある耳石に結着していくことで大きく成長していきます。つまり、耳石の中心部分ほど魚が若いころに形成された部分で、辺縁部分ほど最近に形成された部分となります。
分泌物に含まれるタンパク質の量は1日単位や季節単位などの周期で変動します。輪紋は、分泌物が結着するときのタンパク質の量が変化することで形成されます。
また、カルシウムやタンパク質が結着する時に他のナトリウム分も結着しますが、成分によっては個体が生息する水域の濃度に相関して耳石に結着する濃度が変化する成分もあります。(→この性質も多様な研究に利用されます。)
耳石の成長のイメージ
耳石の外形の変化や輪紋の間隔などは実際の成長の比率などには基づいていません。あくまで耳石が成長していくイメージとして捉えてください。
日周輪
日周輪は耳石器官内の分泌物に含まれるタンパク質の量が1日単位で周期的に変動し、耳石に結着する時のタンパク質の量も変動することで形成されます。肉眼で観えることは稀で、幼魚の耳石を顕微鏡で観察すると確認できます。また、耳石の成長と共に消滅してしまう種もあります。
日周輪を数えることで、生後何日か(日齢)を調べることができます。
年輪
年輪は耳石器官内の分泌物に含まれるタンパク質の量が1年単位で周期的に変動し、耳石に結着する時のタンパク質の量も変動することで形成されます。多くの種の耳石は光にかざしたり液体で濡らしたりすると観察しやすくなります。
年輪を数えることで年齢を調べることができますが、1年に1本の周期で輪紋ができない種もいますので、年齢が分かる他の特徴と照らし合わせたり、予め年輪の出来るパターンを調べておくことが必要です。
耳石の輪紋は耳石を使った研究の中で最もよく使われる形質で、主に魚種の生態調査や養殖業での調査などに活発に使われています。日周輪や年輪を観察するだけではなく、輪紋の局所的な部位の化学分析を行うことでその輪紋ができた水域を推定したり、耳石に特定の成分を結着させてマーカーすることで追跡調査をしたりと、多様に活用されています。
【表面観察法】
その名のとおり、耳石を肉眼や実体顕微鏡で観察する方法です。サルカスや表面の凹凸、耳石の縁辺構造を観察します。また、ある程度光を透過する耳石では日周輪や年輪の観察もできます。本サイトでは主に表面観察法で耳石を深堀していきます。
【薄片法】
耳石を樹脂などに封入し薄く切った耳石の断面を光学顕微鏡などで観察する方法です。耳石の内部を観察することができ、光を透過しにくい耳石の輪紋の観察を行ったり、化学分析を行う調査などに用いられます。近年では光を透過する耳石でも薄片法で輪紋を観察する手法がメジャーのようです。(作者は薄片法はやったことはありません。)
アヤメカサゴの耳石と年輪
白色の輪と半透明の輪が交互に並びます。光を透過させての年輪観察はサルカスの無い面の方が適していますが、サルカスの影などの障害はあります。画像撮影時は耳石の下からではなく、周辺から光を当てています。年輪測定で正確を期すなら薄片法を用いたほうが適切でしょう。